上野動物園とアメ横

まだ5月なのに真夏日になるのでは?くらいの昼下がり。ふと思い立って上野に行ってみた。

一番近いJRの出口が、偶然にも上野公園口だった。
動物園の方向に体が向く、というのは上野という土地の磁力のようなものかもしれない。

大勢の人たちがいるところを横切ると、案内看板が立っていた。
淡い紫色の、耳のような丸い縁取りがついた、いかにも昭和の動物園然とした佇まいの看板である。
中に貼られたポスターには、こう書かれていた。

現在、上野動物園で
ジャイアントパンダは
展示していません。
でも、たくさんの魅力的な
動物たちがいます。
会いに来てくださいね。

これには泣けた。

パンダは上野動物園の象徴で、長らく集客の柱でもあった。それが今はいない。
普通なら「すみません、現在パンダはおりません」と詫びる文面になりそうなところを、「でも、たくさんの魅力的な動物たちがいます」と言い切っている。

ポスターの下部には、キリン、ゾウ、フラミンゴ、ハシビロコウ、レッサーパンダらしき動物たちが小さく並んでイラストで描かれていた。
主役の不在を嘆くのではなく、仲間たちを誇る。
そういう姿勢が、看板一枚に出ているし、きっとふりがながなくても、小さい子にもわかる。

動物園ではなく、車坂の歩道を降りていくと、路面にも動物のイラストが点在していた。ペンギン、カピパラ、シマウマ。
確かに、上野はパンダだけの街ではない。
むしろパンダがいない今のほうが、街全体が「動物の街」として息づいているように見える。

そのままアメ横へ抜けた。

アメ横はもちろん、市場であり、繁華街である。
動物園とは本来関係がない。
ぬいぐるみを売っている店があるから、というような単純な話でもない。
それでも、通りを歩いていると、なぜかさっきイラストにかかれていたような動物の気配がする。

魚屋の店先の威勢、乾物屋に積まれた素材の生々しさ、肉屋のショーケース、革製品、靴、毛皮まがいのもの。
そこには「人間が動物と持ちつ持たれつでやってきた」という長い時間の堆積があるように感じられた。

動物園が「生きている動物に会いに行く場所」だとすれば、アメ横は「動物との関わりの上に成り立った人間の暮らしを見る場所」なのかもしれない。

パンダがいない上野動物園の看板から始まった散歩は、思いがけず、人と動物の距離について考える時間にもなった。